エクスペディション・リーダーの航海日誌
スノーヒル島ルッカリーの発見:歴史的に知られているのはシャクルトンとノルデンショルドの記述で、彼らはウェッデル海の西側海域でコウテイペンギンの群れを発見したと報告している。
ウェッデル海に乗り入れるエクスペディション・チームとして我々は常に新しいコロニーの発見に務めて来た。
2000年には南極調査中の科学者がスノーヒル島の上空を探索中に島の南側でコウテイペンギンのルッカリー一箇所を発見した。彼らはコロニーの頭上を旋回して空中からの観察を行い、調査報告書を発表している。我々エクスペデション・スタッフは全員、ヘリコプター搭載の砕氷船でこの海域を訪れ気象条件や時期があえば島に上陸して、最初にスノーヒル・ルッカリーの場所を特定した人々として記録に残るのを長年夢見てきた。
北風が吹き荒れる2004年の夏、自分はエクペディション・リーダーとして砕氷船に乗り北極海を航行していた。そこで次に自分と共に南極を航海する予定の船長にスノーヒル・ルッカリーの調査報告書を手渡した。今まで誰も徒歩でルッカリーを訪問した人間はいないこと、その為、正確にはどれだけの数の個体が繁殖しているかの調査がまだなされていない事の説明を添えて。この船長はそれまで数年に亘って南極海を航行した経験があり、その発見がいかに貴重なものかを理解していた。
その年の11月、自分は再びエクスペディション・リーダーとして船長が操舵する砕氷船に乗りこんだ。「船長、今回のクルーズで我々の最大の目的はスノーヒル・ルッカリーの発見なのです。」 船長は我々の夢に答えるべくやる気まんまんの様子だった。ドレーク海峡を航行している最中に、我々は乗客全員に今回のクルーズの特別な目的地を伝えた。南極半島のクルーズには通常コウテイペンギンのルッカリーの訪問は含まれていない。その為、もしこれが実現すれば我々のクルーズは歴史に残る快挙を果たす事になるだろうと。乗客たちは全員興奮して歓声をあげた。
そして我々はウェッデル海に分け入った。船長と自分はそこに約50㎞も亘る開氷地域を発見して幸運に感謝した。スノーヒル島に近づくにつれて定着氷を見て更に喜びが増した。その定着氷の先端はルッカリー発見の報告書にあった位置から大体40㎞の場所にあたっていた。
ヘリコプターは既にローターを旋回させて我々を待っていた。まもなく乗客全員に待ちに待った上陸をアナウンスするのだ。船長が砕氷船を氷上にのりあげて安定させるのを待っている間、偵察用のヘリコプターが飛び立った。偵察ヘリは定着氷の上空とスノーヒル島の上空を飛び、反対側にある海氷の上に着氷した。
コウテイペンギンのルッカリーは容易に発見できないものだ。
一般人はペンギンの背中はあんなに真っ黒いのだから純白の氷の上では目だってすぐに見つかるはずだと思いがちだ。それは間違いだ。太陽光線に対して丁度良い角度にならないと、彼らの背中や影を見つけるのは難しいのだ。我々は目的地の上空を行ったり来たりしながら徐々に旋回の輪を広げていき、ルッカリーの場所を見つけようと必死になった。
そして、ついにそれはあった!以前に報告された場所より3kmも離れた場所にあったのだ。船に戻った我々は、乗客全員に「行ける」と伝えた。
気象条件は申し分の無い程素晴らしい。
ヘリコプターの偵察には長い時間がかかったが、世紀の大発見は目の前だと!
その時点で上陸安全確認チームが船に戻り、船からタラップが下ろされた。乗客は全員海の氷の上に降り立ち、その横を興味津々といった表情のコウテイペンギンが通り過ぎてゆく。ウェッデルアザラシたちも氷の裂け目や氷山の上にのんびりとねそべって乗客たちを観察していた。
一旦、乗客全員を船に招集してブリーフィングを開始し、それから8時間かけて南極の皇帝君主たちと並んで歩く機会が乗客全員に与えられた。
(南極旅行&南極クルーズ7-1)