トウゾクカモメ科
カモメやアジサシに近い種類の大きな猛禽類であるトウゾクカモメは、行動範囲の広い鳥です。繁殖期以外は生涯の大部分を洋上で過ごします。
カモメとの違いは主要飛翔用羽毛部の根元近くに白い帯状の斑点がある事です。
南極大陸には二種類のトウゾクカモメが生息しています。どちらもずんぐりとした褐色の鳥でその習性はむしろ鷹に似ています。頑丈で曲がったくちばしを持ち、水掻きのある脚には一見獰猛なかぎ爪がついています。大型のナミオオトウゾクカモメは固いくちばしを備え、全身が灰褐色の斑点で覆われています。
幾分小型のナンキョクオオトウゾクカモメは、よりほっそりとしたくちばしをもっていて、黒い背中とは対照的な灰色の身体と頭の全体が白っぽい色合いで簡単に見分ける事ができます。ナンキョクオオトウゾクカモメの黒っぽい姿はナミオオトウゾクカモメとほとんど同じに見えますが、前者は後者より細身で体の下部分の色合いが淡いのが特徴です。しばしば、この二種類の混血も見られ、両者がかなり近い親類である事が分かります。
南極のオオトウゾクカモメはトウゾクカモメ類の中では最も大型で、他のほとんどの鳥や小動物にとって天敵となっています。常習的に卵を盗んだり雛を捕って食べたりします。ペンギンの雛たちは身体がトウゾクカモメを追い払えるくらいに成長するまでは常に襲われる危険があります。その為、孵化した後の最初の数週間、ペンギンの親たちはもっぱら雛たちを守る為にトウゾクカモメを追い払う事に追われます。
トウゾクカモメは餌をくわえた鳥が諦めてそれを落とすまで、追い詰めて苦しめたり、ミズナギドリやクジラドリの成鳥を殺したりさえします。
彼らは攻撃的な猛禽類で傷ついたペンギンなどかなり大型の餌食でも殺すことができますが、必要ならゴミあさりもします。ナミオオトウゾクカモメが授乳中のゾウアザラシからミルクをかすめとっているのも目撃されています。
トウゾクカモメは営巣するのにコロニーは形成しませんが、よく群れをなして繁殖しています。つまり数組のつがいが同じ付近で巣を作るのですが、巣は互いに十分な距離をとって作られていて、仲間に食べられてしまうことが無いようにしてあります。ナンキョクオオトウゾクカモメは常に海岸近くの岩の上、または広々とした土地の上で巣ごもりします。何でも適当な材料を寄せ集めて巣を作ることもあります。
普通は一度に2個の卵を産み、雌雄交代でおよそ4週間温めます。
雌雄両方で雛に餌を与えたり、卵や雛を果敢に守ったりします。そのため巣の近くを歩く場合は十分に注意する必要があります。巣の周りへの侵入者は恐るべき速度と激しい力で急降下攻撃を受ける恐れがあります。
既に述べたようにトウゾクカモメは繁殖期以外、広く拡散しています。
ナミオオトウゾクカモメは南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、それに南米の海岸付近で越冬することがあり、ナンキョクオオトウゾクカモメははるばる太平洋北部や大西洋にまで遠征することがあります。
成長期をほぼ終えた一団のオオトウゾクカモメが南極半島からグリーンランドまで渡ったことが記録に残っています。
(南極旅行&南極クルーズ6-33)