アホウドリの救済
我々の調査はアホウドリが恐ろしいほどの高率で殺されている事を明らかにした。
John Croxall(英国南極観測局)
アホウドリが飛ぶ姿は南大洋で見られる素晴らしいショーの一つです。
南米南部の港を出航したとたんに色々なアホウドリが船の後を追い、航跡を行ったり来たりしながら素晴らしい舞を見せてくれるので、乗客も船員も感動するものです。そしてサウスジョージアに着くと今度は、急斜面のマユグロアホウドリやハイガシラアホウドリの混雑した営巣地に、また崖の際を飛びながら出すハイイロアホウドリの鳴き声に、さらに幸運な人はワタリアホウドリの崇高な求愛儀式を見てドキドキしてしまいます。
アホウドリや他のたくさんの小さな海鳥を見ていると深刻な問題がある事をつい見過ごしてしまいがちです。
1996年に3種類のアホウドリが正式に絶滅危惧種(IB)に加わりました。
今では世界中22種類のアホウドリの内17種類が絶滅危惧種(IB)で、その内3種はさらに上の絶滅危惧IA類(CR)です。
アホウドリは世界中の鳥で最も危機にさらされている鳥なのです。
アホウドリはマジェランアイナメ、マグロ、メカジキなどのはえ縄漁の犠牲になっています。餌のついた鉤を海に入れる際にアホウドリは楽な餌が見つかったと思い、飛び降りて餌に食いつきますが、一緒についている鉤にひっかかって、鉤と共に海中に引き込まれて溺れ死んでしまうのです。
トロール船でも、網目に頭を入れて抜けなくなったり、鋼鉄のワイヤーに頭をぶつけたりして同じ運命になっています。
犠牲になる数は膨大な規模です。毎年世界中で10万羽のアホウドリを含む30万羽の海鳥が漁業関連の犠牲になっています。
アホウドリは繁殖が遅い種類で、繁殖年齢に達するのに何年もかかり、毎年1個又はそれ以下の産卵で、犠牲数にとても追い着けません。
バード島の繁殖ワタリアホウドリの数は、30年間に毎年4%ずつ減り、三分の一余りが減りました。
当初、網を使わないはえ縄漁が、海鳥、アザラシ、イルカそして他の目的としない魚類などの混獲を避けられるとして、環境にやさしい漁法と考えられていたのは皮肉なことです。はえ縄漁で混獲される海鳥は正しい漁法といくつかの簡単な予防措置をとる事により大幅に減らすことができます。
これらの措置の為の費用はわずかなもので、漁業効率も上がるかもしれないのです。
サウスジョージア政府は、サウスジョージア排他的経済水域で操業する入漁権を持つ全ての漁船が一連の措置をとるよう決めています。
その結果、サウスジョージアにおけるはえ縄漁がらみの海鳥死亡数は取るに足らない程度です。2006~2011の間の毎年4か月ほどの漁期に、サウスジョージア経済水域で操業した10隻ほどの船団の犠牲はアホウドリ4羽と1羽のノドジロクロミズナギドリだけでした。これは入漁料収入を資金としたサウスジョージア政府による、効果的な漁業管理の賜物です。
入漁料収入は、資源量への脅威のみならず混獲犠牲も多い密漁船を威嚇するパトロール船運航の資金にもなっています。
問題は、サウスジョージア生まれのアホウドリは餌を探して、南極海海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)の保護政策が施行されていない公海を含む世界中を飛び回っている事です。ですから、全ての漁船が保護措置をとり、密漁船を海から締め出す国際的な行動のみが完全にアホウドリを救う事が出来るでしょう。
2004年に英国議会で批准された、「アホウドリとミズナギドリ保護の国際協定」に加盟する事はこれらの海鳥の保護を拡大する重要な一歩となるでしょう。
(南極旅行/サウスジョージア島17)