イッカク
イッカク (Narwhal)
イッカクが海岸線を悠々と泳ぐ姿を見ると畏敬の念を抱かずにはいられません。
体色は変わっていて、灰緑色・クリーム色・黒色の細かい斑点があり、まるで硬いブラシでさっと描いたように見えます。とりわけ目を見張るのは伝説にもなっている、雄が呼吸をする際に海面につきだす一本の牙です。
大きな、反時計回りのらせん状の溝が付いていて、長さ3㍍位(体長の5分の3)まであって比較的小型の鯨にしては不釣り合いとも思える牙は中心ではなく左の上唇から左に向かって奇妙な角度で突き出していて、やや下を向いています。
さらに、老齢の雄の尾は反り返り、まるで後ろから前へ生えているような風体でますます奇妙です。学名の意味は一本歯、一本角です。
体形はシロイルカとイッカクは良く似ていますが、イッカクの方が少し大型です。イッカクは歯が2本しかなく、いずれも歯としては機能していません。雄の歯の一本は牙になり、少数の雄には牙が2本生え、少数の雌には1本の牙が生える事があります。牙の目的の詳しい事は分かっていませんが、社会生活や繁殖の際に優位を確保するためかも知れません。
イッカクの主食は頭足類と他の軟体動物、コオリダラ、グリーンランドオヒョウなどです。氷縁部や流氷群近くで捕食しますが夏を過ごす海域ではほとんど食べません。雌は6~8歳で繁殖年齢になり、夏の海域に入る前の7月半ばごろに出産します。交尾は4月半ばに行われると見られ、妊娠期間は14.5ヶ月となります。授乳期間はシロイルカ同様におそらく1~2年で、従って出産は3年に一度程度となります。
イッカクはカナダ高緯度海域、グリーンランド北西と北東部に見られますが、小さな群れはスヴァールバル諸島とフランツヨーゼフ・ランド周辺にもいます。
群れは子供連れの雌の群れで、身体の大きさ、体色、牙の大きさが同じくらいの大きな雄の群れがその中をぶらついていますが、フィヨルドの中では広く散らばる傾向があります。イッカクの牙は収集家や博物館により珍重されているため、先住民狩人のイッカク狩猟に対する強い動機づけとなっています。
そのため、捕獲数の監視と割り当て制が導入され、その中には仕留めたまま沈んで行方不明になった物も算定値に含まれます。イッカクはエンジン音におびえて隠れてしまう事が多く、仕留めるのは容易ではありません。
(北極旅行&北極クルーズ6-48)