北極の氷
海水は、塩分濃度にもよりますが、水温が-1,8℃位に下がると凍り始めます。塩分が多いほど氷点は下がります。
面白い事に、氷は時間が経つにつれて塩分が少なくなります。
例えば、新しい1年氷(厚さ約10~30㌢)は1.5~2.0%程度の塩分含有量ですが、多年氷(厚さ3㍍以上)の塩分濃度は0.1~0.2%程度しかありません。
塩分が少ない古い氷ほど硬く、そのため砕氷船が通過するのが難しくなります。
冬が近づくと北極海の水面は凍り始め、最終的に厚さ1~3㍍の氷の層が形成されます。静かな海面であれば、最初に微小な針状の結晶が成長してくっつきあって広がり、海面に「氷晶」や「グリースアイス」と呼ばれる薄い膜を形成します。
これは油膜のように見えます。海面が静かであればこれらの氷晶どうしが凍結して1枚の連続した氷になり、それが厚くなると「ニラス(厚さ10㌢未満)」となります。ニラスが形成されると水の分子は既にある氷の底に凍りつき1年氷となります。
水面が荒れて波などがあると、新しい氷は水中に漂う濃い氷晶となって互いに凍結し合って小さなはす葉氷となります。
小さなはす葉氷は合体して大きなはす葉氷となって、最終的にはパックアイス(流氷)となります。
通常はデコボコの表面ですが雪が表面を覆うと白い氷原のように見えます。
浅い部分に氷が形成されてそのまま低温が続くと底(あるいは岸辺)まで凍り付いて定着氷となり、翌年の夏まで岸に凍りついたままです。
氷年は通常11月1日ごろに始まり翌年の10月31日頃に終わります。
一般的に、氷は形成される最初の年の「1年氷」の間に厚さ30㌢から2㍍くらいまで育ちます。その氷が2年目まで残ると「2年氷」となり、さらに長く残ると「多年氷」となって3㍍以上の厚さにもなり、5~8年又はそれ以上も融けずにいる事もあります。
海流、嵐、潮位など色々な力が氷を曲げたり割ったりします。
結果としてひび割れが大きくなって、流氷の白色と水面の濃い色を対照的に見せる海水面水路(リード)が出来る事があります。
北極海で、気象学的には表面が氷で覆われているべき海域でも部分的にあるいは広い海域で冬でも結氷しない事があります。そのような海域は「ポリニヤ」と呼ばれています。北極ではポリニヤは9~12ヶ月間も2㍍以上の厚い流氷で覆われた海域の真っただ中にも起こります。
個々のポリニヤの大きさは数㎢からグリーンランドとカナダ北極のエルズミア島の間にあるノース・ウォーター(North Water)の5万㎢以上の広さまで様々です。
これらのポリニヤは冬の重要な海生哺乳類の呼吸穴や海鳥のえさ場を提供しています。北極の短い夏の間に氷は段階的に融解します。
まず、氷上の雪が融けて氷の上に水たまりができます。
その水たまりの底の氷が融けて氷に穴 (氷に囲まれた色の濃い部分) が開き,たまった水が海中に流れ出ます。
最後に氷の結晶が緩くつながったもろい、氷と言うより水に近い状態になります。大きな氷板は夏の融解をしのぎ、冬になって再凍結します。
その大氷板は海流に乗ってボーフォート海では時計回りに動き、あるいは北極海盆を横断してグリーンランドとスヴァールバル諸島の間を通って北極海から出ます。
冬には北極海全体を覆う海氷は1,400万㎢位の広さに、そして夏の終りには800万㎢位になりますが、その約半量は厚さ2㍍位の流氷です。
例外的にグリーンランド北西とエルズミア島北のリンカーン海では圧力を受けて海氷が互いに重なり合う「のしあがり(Rafting)」が起きて厚さ6㍍にもなる事もあります。
極地の海には2種類の氷があります。今まで話してきた海氷と、エルズミア島北岸のワード・ハント棚氷から欠け落ちた「氷島(Ice Islands)」の別名がある氷山です。巨大な氷山はクックやピアリーが島と見間違えたかもしれません。
地球の自転軸と公転軸の変動の2つの相互作用がおそらく、地球が氷河期となるのか、あるいは間氷期となるのかを決定します。
アジア大陸の多くの大河と北米大陸のマッケンジー川が主に北極海盆の「河氷」の材料を提供しています。
河口近くのデルタで形成される氷は沈殿物や藻類などが含まれて独特の茶色をしており、表面は通常平らです。
時には割れて、流氷と同じように北極海に何キロも漂い出る事があります。
(北極旅行&北極クルーズ5-3)