第4章 北極の文化
この文章では「イヌイット」を北極地方の先住民族全体をあらわす集合名詞として使用しています。単数は「イヌック」です。
ラブラドール、グリーンランド、ノースウェスト準州とヌナブト準州、アラスカ、シベリア北東部の沿岸地方の先住民族は、多くの共通の文化的特徴を持っており、その他の北極周辺先住民とは異なっています。
エスキモーという言葉はアルゴンキン語で「生肉を食べる人」を意味するエスキポト(Eskipot)から派生した言葉ですが、この言い方が現代社会では悪いイメージにつながると考え、別の呼び名を好む人もいます。
もっとも広く使われている呼び名は「イヌイット」です。
これは厳密にはカナダ北極東部のエスキモーを指します。
ベーリング海地方のエスキモーは「ユピック」を好み、アラスカ北岸地方のエスキモーは「イヌピアット」、マッケンジー川デルタのエスキモーは「イヌヴィアルイット」と呼ばれるのを好みます。
グリーンランドでは「グリーンランド人」又は「カラーリット」を使います。
本書では「イヌイット」を北極地方の先住民族全体を意味する言葉として使っています。イヌックが単数です。旧来の「エスキモー」はアラスカなど、まだ多少使われている所もありますが、カナダを中心とした東側では使いません。
言語学的には、全てのイヌイットはエスキモーだが、全てのエスキモーがイヌイットとは限らない、という事でしょう。
北極地方の全てのエスキモー系言語のルーツは類似していますがお互いに意思の疎通は出来ません。例えば、北シベリア北東部ではユイトが話され、ノートン海峡以南のアラスカ沿岸ではユピックが、アリューシャン列島ではアリュート(他からは大きく異なる古代語)、そしてノートン海峡中央部から北、東へカナダ北極、グリーンランド、ラブラドールまでがイヌピックと言った調子です。
最後のイヌピックは地理的には世界で最も広範囲で話されている言葉の一つで、アラスカ北部とグリーンランドでは若干の方言が異なるだけです。
チュクチ、ネネツとサーミ語などは非常に異なる語源を持っています。
(北極旅行&北極クルーズ4-1)