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【スタッフレポート】アデリーペンギンの繁殖期後半に見られた変化
クルーズライフの「日本人通訳兼ナチュラリストガイド」として乗船した保阪瑠璃子さんよりレポートをご紹介します。
前半分のブログでお話しした、アデリーペンギンの繁殖期前半に引き続き、今回は繁殖期後半である2月に見られたいろいろな変化をお話ししたいと思います。
冬の間に温かい海で出産した鯨は1年分の栄養と皮下脂肪を蓄えるために子連れで11~12月頃に続々と集まってきます。南極半島周辺で見られるのはザトウクジラとミンククジラが大半を占めますが、シャチそして2月14日には南極30年の経験で初めてミナミセミクジラも見る事が出来ました。
数年前頃から、どの便でもほぼ100%の確率で見られるクジラですが、2月になるとバブルネット漁法やブリーチング、尾ひれを水に打ち付けるロブテイリング、そして胸ヒレ叩きなどより活発な行動が見られる確率が高くなります。さらにボートのごく近くまで来て私たちを観察することも多々あります。大きなカメラとレンズをお持ちの方もスマホや小型カメラなどで瞬間的なベストショットに備えましょう。
ザトウクジラの親子が私達のボートを観察しに来ました。
今シーズンのポータルポイントは毎便、鯨祭りの状態でした。
仰向けで泳ぎながら胸鰭で水をたたいたり、親子で同じしぐさをしたりして3次元の世界を楽しんでいました。
母系家族のシャチの群れとも接近遭遇できました。
通常アデリーに遅れる事2~3週間位に孵化するヒゲペンギンはアデリー同様にオキアミが大好きな種類ですが、本来はサウスジョージア島やサウスサンドイッチ諸島に多く、南極半島よりもサウスシェトランド諸島でより多く見かけます。
この1年生はあと数日で海に入るでしょう。子育てが終わったペンギンの親鳥たちは2週間ほど海で栄養を付けた後、陸上で3週間にわたる換羽期に臨みます。
内側から生えてくる新しい羽に押されて浮いた1年前の古い羽が風に吹かれて飛んでいきます。その間防水加工が無くなるので海で餌をとることはできません。雪を食べて若干の水分補給はしますが断食ですから、終了時には体重が40%近く減ってしまいます。
3種類のペンギンの中で最も遅く始まり、なおかつ子育てに最も長くかかるのが亜南極種のゼンツーペンギンです。
1月初旬ごろ孵化するゼンツーペンギンも2月下旬には徐々に水に入れる羽に変わり始めます。
幼鳥の換羽がどんどん進み、繁殖年齢に達していない成鳥の換羽も進む中、一つだけ極端に遅い巣を見つけました。経験の浅い若い番かもしれません。約1ヶ月は他のゼンツーより遅いので今からではこのヒナが無事に巣立ちするのは難しいでしょう。雪の融けるのが遅いダンコ島では他の島よりヒナが小さいようでした。
捕鯨時代の遺物である水運搬ボート近くで毎年繁殖するナンキョクアジサシの1年生は羽柄がまだらです。来年には成鳥と同じ灰色でおでこだけ白くなり、3年目にやっと成鳥と同じ羽色になります。
島の上の方で繁殖するゼンツーペンギンを餌にして大きくなった巣立ち間際のチャイロオオトウゾクカモメです。毎年同じ場所に巣を作り、ゼンツーペンギンの生長の遅いヒナはこのヒナの餌となります。
ポート・ロックロイの元英国A基地の建物は修復されて博物館と郵便局・売店になっていますが、建物の床下ではサヤハシチドリも子育てをしています。水かきのないこの鳥は、周りにたくさんいるゼンツーペンギンの卵、糞の中の栄養分、そして親ペンギンがヒナに口移しでエサをやる瞬間に割って入り、こぼれたオキアミを自分のヒナに与えるというサヤハシチドリならではの生存本能で養われるこのヒナも今年の1年生です。
ミナミオオセグロカモメの1年生は親と全く違う羽色です。3~4年経たないと親と同じカモメらしい羽色になりません。多くの空を飛ぶ鳥の繁殖はペンギンより数週間早く完了するので、2月中旬には巣は大抵空になります。デセプション島では捕鯨基地跡のボイラー設備の上で繁殖します。
キバナウは海藻、泥、自分の糞などで円筒形の巣を作ります。数十mも潜れるキバナウはゼンツーペンギンと共に南極半島海域では増加傾向にあります。他の島ではもう自分で泳ぎ回れるヒナもいました。
今季の夏は記録的な熱波でした。2月初旬に南極半島北端部分にあるアルゼンチン基地では18℃や20℃といった記録破りの気温となり、雪が融けるのも急激でした。岩に張り付いている部分の氷河にひびが入っている例も多々見られました。
通訳兼ナチュラリスト 保阪瑠璃子