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【スタッフレポート】南極圏と南極クルーズ14日間
クルーズライフの「通訳兼ナチュラリストガイド」として乗船している、
保阪瑠璃子の2017~18年のシーズン最後の南極クルーズの報告をご紹介します。
2月28日(水) ウシュアイア出港
低気圧が近づいているとの事で予定よりちょっと早めの17:30にウシュアイアを出港しました。ビーグル水道を航行中の本船から眺めるマルティアル山系の氷河が年々小さくなっている事にここにも地球温暖化の影響が及んでいるのかと心を痛めました。
本船は、外洋を航行して真っ直ぐ南極圏を越えて南緯66度57付近への到達を目指しているとのことでした。本船の周りを飛び交う海鳥の中にマゼランカモメを見る事ができました。出港後に避難訓練やパルカの配布、長靴の引渡しが行われました。
3月1日(木) 日の出:06:45/日の入り:21:41
12:00現在の位置 南緯57度35分/西経66度35分
低気圧の影響で多少船が揺れました。風力は7~8ノット程度で、視界は良好でしたが少し高波がありました。
今日の南極講座では、想像の南極、写真教室、南極のアザラシが行なわれ、フローズン・プラネットの映画上映やヨガ、シーカヤック、スタンドアップ・パドルボードの説明会もおこなわれました。
今夕、本船は南極収束線を超える予定との事でした。
3月2日(金) 09:00現在の位置 南緯62度20分/西経66度20分 曇り、気温4℃
12:00現在の位置 南緯62度57分/西経66度59分 気温3℃
未だ、うねりが少し残っていましたがサウスシェトランド諸島辺りに近づいた頃から流氷が現れ始めたため、フィンスタビライザー(横揺れ防止装置)を格納して航行している関係で、時折15度位船が傾く事もありました。船内のコンパスクラブやブリッジは閉鎖されていましたが、船内講座は引き続き行われました。時々、今年巣立ったであろうと思われるミナミオオセグロカモメの幼鳥が見えました。
今日の南極講座では、「ダーウィンの南極、ペンギン、ゾディアックボートの利用方法とバイオセキュリティ、海鳥-南極に集まる動物たちの南極への適応進化状況について」などが行なわれました。
夕食前のリキャップでは、「ボーフォートの風力表、南極圏とは、フォトジャーナル寄稿について」の説明がありました。
その後、船長主催のウェルカム・カクテルが催され楽しいひと時を過ごしました。
3月3日(土) 07:15現在 南緯66度22分/西経67度43分 曇り 気温2℃
クリスタルサウンド&デタイユ島
ウシュアイアを出港してからの3日目の朝、氷山が見え始め今までの船の揺れが嘘のように収まりました。
09:29 南極圏通過(西経67度25.6分)
客船の前方甲板に乗客全員が集まり、エクスペディション・リーダーのスピーチに続き、南極圏到達を祝ってシャンパンで乾杯を行いました。その後、マーサ海峡を抜けてクリスタルサウンド奥のハヌスーベイ(南緯67度7分/西経67度25分)とザ・ギレット(南緯67度70 分/西経67度38分)を目指す事になりました。
2年前の2月22日頃に訪れた時の状態と異なり無風状態で海氷はまったく見当たらず、大きな氷山だけが浮かんでいました。カニクイアザラシの群れが海から顔を出して通り過ぎる船を珍しそうに見ていました。
昼食前にエクスペディション・リーダーから、「午後は14:00開始でデタイユ島の上陸とクルージングをする予定」との船内放送がありました。デタイユ島は、南極史跡となっていますが小島のため、同時上陸は50人までで、さらに旧英W基地建物内には12名までとの規制があるため、早組と遅組と分かれ、さらに2つのグループに分かれての観光を行いました。
早組が本船に戻ったのは17:00頃で、遅組が本船に戻ったのは20:30頃でした。
積雪1メートル程の小島に建つ1956~59年に使われたデタイユ島の英W基地は、ポートロックロイと同時期の建物ですが復元されていない為、時間が止まったような錯覚さえ覚え非常に感動的でした。
時折、カニクイアザラシの群れがゾディアックボートに寄ってくることがありました。氷河の陽だまりの部分には、緑や赤色の氷雪藻が広がっていました。期待していた海氷と巨大氷山は見えませんでしたが好天に恵まれ最高の時を過ごす事が出来ました。また、オオトウゾクカモメの未だ全く飛べないヒナを親鳥の近くで見る事ができました。
夕食後、エクスペディション・リーダーから、「明日の天気予報では、この辺りは風が強くなる可能性があるので島々を縫いながらゆっくり北上する」との船内放送がありました。
明日は、プロスペクトポイントとフィッシュ諸島を訪れる予定との事でした。明日の活動を大いに期待したいものです。
3月4日(日) 07:45現在 南緯66度02分/西経65度35分 小雨 気温1℃
予想ほど海氷が少なかったので、内海経由でも朝食前にプロスペクト・ポイント付近に到着。午前中は、小雨が降っていて視界があまり良くなかったのですが、フィッシュ諸島内の小島群で約1時間30分ゾディアッククルーズを行いました。キバナウの幼鳥の群れが好奇心に駆られたのか泳ぎながらゾディアックボートに寄ってきました。ミナミオオセグロカモメの幼鳥も見えました。ここでは、換羽中のアデリーペンギンが以前訪れた時よりも増えている印象を受けました。温暖化にともなってピーターマン島に繁殖していたアデリーペンギンがここまで移動したのかも知れません。サヤハシチドリは北へ移動したのか全く見かけませんでした。また、これまでにノドジロ(アデリーペンギンの幼鳥)が見られなかったのは、3種類のペンギンの中で最も早く繁殖を始めるために、今は、シーズン終盤に差し掛かっている時期なので全て大洋に出てしまったからなのだろうかとも思いました。
午後は風が強くなり、プロスペクト・ポイントへの上陸を断念し外洋経由で北上する事になりました。
3月5日(月) 07:45現在 気温1℃ 風速35~40ノット
風が強くフレンチ・パッセージに入れず、アルゼンチン諸島の南から南極半島に近づきました。
午前中は、タクセン岬のすぐ南にある ザ・バーセロ諸島でのゾディアッククルーズのみを行いました。ザトウクジラが続出したため、見学は2時間30分にも及び大歓声の中で大いに盛り上がりました。諸島内のグリーン島は、その名の通り花崗岩質の島の北半分を覆うこんもりとしたコケ類が緑色で、南側の残雪と対照的な景色を作り出していました。ゾディアックボートからでは、地衣類と苔以外の草(顕花植物?)は確認できませんでした。座礁している巨大氷山の周辺でザトウクジラを5頭(2頭+2頭+1頭)、換羽中のゼンツーペンギン、キバナウの幼鳥、ミナミオオセグロカモメ幼鳥、アシナガウミツバメ、ウェッデルアザラシ(1頭)、 水中にカニクイアザラシなどが見られました。ゼンツーペンギンの南限営巣地はこの場所まで南下しているものと思いました。
操舵室を訪れると、お客様用に完備されたiPadに、海図に入り江や島々の名前、現在地などが表示されていてとても便利だと感心しました。
今まで、陸上を歩く事が少なかったので、午後の予定は、ピーターマン島への上陸となりました。陸上の雪は氷雪藻で緑や赤に染まっていました。換羽中のアデリーペンギン十数羽以外は、みなゼンツーペンギンの2世代で溢れていました。今年生まれたヒナの殆んどは、水に入れる親羽になっていましたが、未だに追いかけ給仕が盛んでした。成鳥の換羽中は、未だ僅かでした。
サヤハシチドリは既に移動してしまったのか全く見えず、トウゾクカモメもとても少なかったです。上陸地付近のアルゼンチンの避難小屋が改築工事完了間近でした。クルーズ中の島の裏側の入り江で、茶色のまだらな翼をしたアジサシの幼鳥と顕花植物であるナンキョクコメススキを見る事が出来ました。アデリーペンギンの幼鳥(ノドジロ)は、全く見えませんでした。
3月6日(火) 07:15現在 小雨 気温1.5℃
無風状態だが 雪→みぞれ→あられ→夜には雪
午前中、ヤルール諸島でのゾディアッククルージングの最中、突然ザトウクジラが次々と現れ、さらにミンククジラが4頭、雄のシャチが2頭と続いたため、ピーターマン島近くのペノーラ海峡で2時間程のクジラ見物を大いに楽しみました。
巨大氷山はありましたが、しかし、カニクイアザラシが登れそうな手ごろな海氷は殆んど見当たりませんでした。
昼食時に本船が次の上陸ポイントに移動中から視界が悪くなり、午後は、霧雨の中、プレノー湾でゾディアッククルージングとポート・シャルコーでの上陸観光を楽しみました。以前には、ここにいたはずのアデリーペンギンは、時期の関係なのか全く見当たらずゼンツーペンギンの2世代ばかりでした。ゾディアッククルージングでは、ミンククジラ2頭とカニクイアザラシ4頭、アジサシ、氷山の大崩壊を見学する事が出来ました。この日、本船に戻ってから、気温0℃、水温1℃の環境の中で恒例のポーラープランジ(南極海飛び込み大会)が行なわれ、記録破りとなる119名ものお客様が参加し盛大な大会となりました。
南極に秋の気配が漂う2月下旬から3月上旬の天候は、崩れやすいのかとも思えた一日でした。
3月7日(水) 07:15現在 うす曇り 気温-1℃/水温+2℃
ようやく雲が高くなって青空が見え始めた
やっと青空が出てきて周囲の山々も見渡せる天気となりました。午前中は、ダンコ島での上陸観光とゾディアッククルージングをおこないました。1月にダンコ島を訪れた際には、平地に1メートルもの積雪があったのですが雪も融け、まるで違う場所かと思うほど景色が異なっていました。
ゼンツーペンギンも換羽中の成鳥と水に入り始めた幼鳥が混在していました。ゾディアッククルージングでは、またまた、ザトウクジラ2頭、ミンククジラ2頭、雄のシャチ2頭、カニクイアザラシ1頭、その他に、アジサシとミナミオオセグロカモメの幼鳥が飛び回っているのを観察する事が出来ました。
トウゾクカモメのヒナは、飛べるようになるにはあと2~3週間かかりそうですが、孵化が遅すぎてまだ小さいペンギンのヒナ達が彼らの餌となるのであろう。ペンギンと鳥たちの微妙な時間差繁殖スケジュールに感心します。
陽光が降り注ぐエレラ海峡を航行中、屋外デッキでBBQの昼食を楽しみました。昼食を終えた頃から天気は一変し雪が降り始め、風も30ノットもの強風に変わり視界ゼロの中、ノイマイヤー海峡通過となりました。上陸予定であったダモイ・ポイントの海岸には吹き寄せられた砕氷が折り重なっていて上陸は断念せざるを得ませんでした。
その後、3日前に今シーズンの営業を終えたポートロックロイ側に本船を移動し、16時30分から45分程、雪が降る中でのゾディアックルージングを行い、ヒョウアザラシなどを見学する事ができました。
3月8日(木) 12:00現在 濃霧→曇り 気温1.5℃/水温2.6℃ 風速5ノット
08:00 ネコハーバー或いはパラダイス湾に上陸予定でしたがアンドヴォ―湾内に大量の氷山が入り込んでいるため上陸を断念し、10:00からフォイン・ハーバーのウイルヘルミナ湾で2時間のクルージングを行いました。キバナウやアシナガウミツバメ、アジサシ、オオトウゾクカモメなどが観察できました。ここにも夏の間に氷河から分離した大小の氷山が流れ着いていて、12月より大型の氷山が多いような感じを受けました。また、南極のアイドルとも呼べる真っ白なユキドリを見れるという幸運にも恵まれました。ここ数日間、気温(1.5℃)より水温(2.6℃)が高い日が続いており、蒸発した海水が上空の冷気に会って霧雲(濃い灰色の低い雲)が出来ていました。
14:30ポータル・ポイントで南極大陸本島への初上陸を果たす事が出来ました。積雪が50cm以上で夏が終わりに近づき、秋の訪れを感じました。上陸地の右奥へ500mほど回り込んだ岩場にヒゲペンギンの小さな繁殖地があり、繁殖地と海を往来する様子が見られました。クルージングの際には、ザトウクジラ4頭(2頭+2頭)とウェッデルアザラシ2頭、カニクイアザラシ5頭、多数のオットセイ、サヤハシチドリ6羽、キバナウの幼鳥を観察する事ができました。
夕刻には、久しぶりに青空が広がり、ブランズフィールド海峡の夕日がとても綺麗でした。
3月9日(金) 日の出:06:27/日の入り:20:06
12:00現在 晴→快晴 気温8℃/水温3.3℃
07:30 デセプション島のホエーラーズ湾での上陸とゾディアッククルージングを行いました。ホエーラーズ湾などの平地は、膨大な数のオットセイが占拠していて足の踏み場もないほどでした。あと数年でこの一帯はオットセイに完全に占拠されてしまうのではないだろうか思うほどでした。サウスシェトランド諸島内でもオットセイの繁殖が始まっているとの情報もあるほどでした。
ゾディアッククルージングでネプチューンズ・ウインドウの外側辺りまで行きました。ヒゲペンギンは2世代いるみたいですが揺れるゾディアックボートからでは見分けが付きませんでした。ゾウアザラシ4頭、ウェッデルアザラシ2頭、ヒゲペンギン、サヤハシチドリ、アジサシなども観察出来ました。クルージング中にミナミオオセグロカモメの幼鳥の群れが好奇心からゾディアックボートの真上までやってくるというハプニングもありました。
上陸観光で、ホエーラーズ湾の砂浜を歩いた際、満潮時に打ち上げられたと思われる色々な成長過程のオキアミやゾウリムシなどが見られました。ハーフムーン島へ移動し、上陸とゾディアッククルージングを行いました。
オットセイたちは、ほぼ平地の全域に数多くいました。また、海岸段丘の上まで登ってきているオットセイもいました。そのため、東側のマカロニペンギンがいる場所に行くことは到底無理でした。
夕刻、デセプション島を離れ針路をウシュアイアに向け航行している際、青空を背景に陽光を浴びたリビングストン島の氷河がとても美しく光り輝いていたのが印象的でした。
夕食は、イタリアンディナーを楽しみ、夕食後、南極を離れるにあたって参加者全員で南極の旅に乾杯を行いました。
3月10日(土) ドレーク海峡横断クルーズ
日の出:06:39/日の入り:19:49 快晴
08:00現在の位置 南緯60度15分/西経61度28分 気温4℃
12:00現在の位置 南緯59度30分/西経62度18分 気温5℃
パイロットステーション ETA 03:11
完璧ともいえる凪の状態で本船の周囲には、一切の海鳥は飛び交っていませんでした。エクスペディション・スタッフの皆さんは、今クルーズがシーズン最後となるため片付け等で忙しく働いていました。
本日の南極講座は、「写真教室、オキアミについて、2041年までの私達の使命、ヒゲクジラ類」などが行われました。
午後は、長靴とライフジャケットの返却や慈善オークションなどが行なわれました。
ドレーク海峡横断は極めて快適な航海でした。
3月11日(日) ドレーク海峡横断クルーズ 曇り
09:00現在の位置 南緯56度39分/西経66度30分 気温7℃
15:00頃、ホーン岬最接近
昨晩、僅かに揺れましたがそれ程ではありませんでした。乗客の皆さんは、元気で、朝食をしっかり召し上がっていました。風が殆んど吹いていないため、本船の周囲を飛び交う海鳥も見えませんでした。
南極講座では、「海鳥の脅威、下船説明会、ホーン岬就航(無声映画で解説付き)、さらに探検、ペンギンとキーウィの潜水」などが行なわれました。
15:00頃 ホーン岬まで5.5kmまでの距離に接近、天気も良く双眼鏡でチリの測候所やアホウドリの碑なども良く見えました。18:30さよならカクテル、19:30さよなら夕食会、 21:00今までの旅を振り返ってのスライドショーなどが催されました。
3月12日(月) ウシュアイア入港/下船→フエゴ島国立公園観光→ウシュアイア発→
(チャーター機)→エセイサ空港到着
06:15モーニングコール、07:00バゲージアウト(客室前の通路にスーツケース等の荷物出し)及びパスポート、チャーター機の搭乗券受け取り、06:30~08:00朝食、08:00下船開始という時間割で進み、下船開始となりました。
下船後、フエゴ島国立公園観光に出発、観光場所は、エンセナダ、ラパタイア、ロカ湖でしたが、ロカ湖畔には、新しく出来たビジターセンター(観光案内所と博物館、レストラン、カフェテリア、ショップ、トイレを併設)に立ち寄りました。ここは、ホテルを建築中に火災になり長い間放置されていた建物を改築したもので、トイレも比較的清潔で快適でした。小さな博物館の照明は暗めで英文の説明文字が小さめでしたが、簡潔に書かれていてとても分かり易いと思いました。
手前のラパタイア川の畔にはクロエリハクチョウやマゼランガンの親子を見る事がで出来ました。
観光終了後は、ウシュアイア空港からチャーター機でブエノスアイレスのエセイサ空港へ移動。エセイサ空港で荷物を受け取ったあと解散となりました。
今回の南極クルーズは、多少天候に恵まれない日もありましたが、クジラ類を始めとする多くの野生生物との出会いは感動と興奮の連続でした。
3月は多少の天候不順は考慮しなけらばなりませんが、観察できるワイルドライフの種類が劇的に増える時期です。
南極には太古からの雄大な大自然と多くの野生生物が息づいています。南極の旅は人生観を変えるほどの感動があるんだと心から思えるほどの素晴らしい旅でした。